か。」
「全く相違ありません。」
「出現後は何を致した。」
「ザシキをザワッザワッと掃《は》いて居りました。」
「何の為《ため》に掃いたのだ。」
「風を入れる為です。」
「よろしい。その点は実に公益である。本官に於《おい》て大いに同情を呈《てい》する。しかしながらすでに妄《みだ》りに人の居ない座敷の中に出現して、箒《ほうき》の音を発した為に、その音に愕《おど》ろいて一寸のぞいて見た子供が気絶をしたとなれば、これは明らかな出現罪である。依《よ》って今日より七日間当ムムネ市の街路の掃除を命ずる。今後はばけもの世界長の許可なくして、妄りに向う側に出現することはならん。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」
「実に名断だね。どうも実に今度の長官は偉い。」と判事たちは互《たがい》にささやき合いました。
 ザシキワラシはおじぎをしてよろこんで引っ込みました。
 次に来たのは鳶《とび》色と白との粘土で顔をすっかり隈取《くまど》って、口が耳まで裂《さ》けて、胸や足ははだかで、腰《こし》に厚い簑《みの》のようなものを巻いたばけものでした。一人の判事が書類を読みあげました。
「ウウウウエイ。三十
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