はこちらの世界の人民が向うの世界になるべく顔を出さぬように致したいのでございます。」
「わかりました。それではすぐやります。」
ネネムはまっ白なちぢれ毛のかつらを被《かぶ》って黒い長い服を着て裁判室に出て行きました。部下がもう三十人ばかり席についています。
ネネムは正面の一番高い処に座りました。向うの隅《すみ》の小さな戸口から、ばけものの番兵に引っぱられて出て来たのはせいの高い眼《め》の鋭《するど》い灰色のやつで、片手にほうきを持って居りました。一人の検事が声高く書類を読み上げました。
「ザシキワラシ。二十二|歳《さい》。アツレキ三十一年二月七日、表、日本岩手県|上閉伊《かみへい》郡|青笹《あおざさ》村|字《あざ》瀬戸二十一番戸伊藤万太の宅、八畳座敷中に故なくして擅《ほしいまま》に出現して万太の長男千太、八歳を気絶せしめたる件。」
「よろしい。わかった。」とネネムの裁判長が云いました。
「姓名|年齢《ねんれい》、その通りに相違《そうい》ないか。」
「相違ありません。」
「その方はアツレキ三十一年二月七日、伊藤万太方の八畳座敷に故なくして擅に出現したることは、しかとその通りに相違ない
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