喰べてから、やっと、
「おじさんありがとう。ほんとうにありがとうよ。」なんて云ったのでした。
 男は大へん目を光らせて、二人のたべる処《ところ》をじっと見て居りましたがその時やっと口を開きました。
「お前たちはいい子供だね。しかしいい子供だというだけでは何にもならん。わしと一緒《いっしょ》においで。いいとこへ連れてってやろう。尤《もっと》も男の子は強いし、それにどうも膝《ひざ》やかかとの骨が固まってしまっているようだから仕方ないが、おい、女の子。おじさんとこへ来ないか。一日いっぱい葡萄パンを喰べさしてやるよ。」
 ネネムもマミミも何とも返事をしませんでしたが男はふいっとマミミをお菓子《かし》の籠の中へ入れて、
「おお、ホイホイ、おお、ホイホイ。」と云いながら俄《にわ》かにあわてだして風のように家を出て行きました。
 何のことだかわけがわからずきょろきょろしていたマミミ〔一字不明〕、戸口を出てからはじめてわっと泣き出しネネムは、
「どろぼう、どろぼう。」と泣きながら叫《さけ》んで追いかけましたがもう男は森を抜《ぬ》けてずうっと向うの黄色な野原を走って行くのがちらっと見えるだけでした。マミ
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