ミの声が小さな白い三角の光になってネネムの胸にしみ込《こ》むばかりでした。
 ネネムは泣いてどなって森の中をうろうろうろうろはせ歩きましたがとうとう疲《つか》れてばたっと倒《たお》れてしまいました。
 それから何日|経《た》ったかわかりません。
 ネネムはふっと目をあきました。見るとすぐ頭の上のばけもの栗の木がふっふっと湯気を吐《は》いていました。
 その幹に鉄のはしごが両方から二つかかって二人の男が登って何かしきりにつなをたぐるような網《あみ》を投げるようなかたちをやって居りました。
 ネネムは起きあがって見ますとお「キレ」さまはすっかりふだんの様になっておまけにテカテカして何でも今朝あたり顔をきれいに剃《そ》ったらしいのです。
 それにかれ草がほかほかしてばけものわらび[#「ばけものわらび」に傍線]などもふらふらと生え出しています。ネネムは飛んで行ってそれをむしゃむしゃたべました。するとネネムの頭の上でいやに平べったい声がしました。
「おい。子供。やっと目がさめたな。まだお前は飢饉のつもりかい。もうじき夏になるよ。すこしおれに手伝わないか。」
 見るとそれは実に立派なばけもの紳士《
前へ 次へ
全61ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング