人ずつ私の前をお通りなさい。」と云いました。
学生どもは、そこで一人ずつ順々に、先生の前を通りながらノートを開いて見せました。
先生はそれを一寸見てそれから一言か二言質問をして、それから白墨《はくぼく》でせなかに「及」とか「落」とか「同情及」とか「退校」とか書くのでした。
書かれる間学生はいかにもくすぐったそうに首をちぢめているのでした。書かれた学生は、いかにも気がかりらしく、そっと肩をすぼめて廊下《ろうか》まで出て、友達に読んで貰《もら》って、よろこんだり泣いたりするのでした。ぐんぐんぐんぐん、試験がすんで、いよいよネネム一人になりました。ネネムがノートを出した時、フゥフィーボー博士は大きなあくびをやりましたので、ノートはスポリと先生に吸い込まれてしまいました。先生はそれを別段気にかけるでもないらしく、コクッと呑《の》んでしまって云いました。
「よろしい。ノートは大へんによく出来ている。そんなら問題を答えなさい。煙突《えんとつ》から出るけむりには何種類あるか。」
「四種類あります。もしその種類を申しますならば、黒、白、青、無色です。」
「うん。無色の煙《けむり》に気がついた所は
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