、実にどうも偉《えら》い。そんなら形はどうであるか。」
「風のない時はたての棒、風の強い時は横の棒、その他はみみずなどの形。あまり煙の少ない時はコルク抜《ぬ》きのようにもなります。」
「よろしい。お前は今日の試験では一等だ。何か望みがあるなら云いなさい。」
「書記になりたいのです。」
「そうか。よろしい。わしの名刺《めいし》に向うの番地を書いてやるから、そこへすぐ今夜行きなさい。」
ネネムは名刺を呉《く》れるかと思って待っていますと、博士はいきなり白墨をとり直してネネムの胸に、「セム二十二号。」と書きました。
ネネムはよろこんで叮寧《ていねい》におじぎをして先生の処《ところ》から一足退きますと先生が低く、
「もう藁《わら》のオムレツが出来あがった頃《ころ》だな。」と呟《つぶ》やいてテーブルの上にあった革《かわ》のカバンに白墨のかけらや講義の原稿《げんこう》やらを、みんな一緒《いっしょ》に投げ込んで、小脇《こわき》にかかえ、さっき顔を出した窓からホイッと向うの向うの黒い家をめがけて飛び出しました。そしてネネムはまちをこめた黄色の夕暮《ゆうぐれ》の中の物干台にフゥフィーボー博士が無事に
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