ながら自分もふところから鉛筆《えんぴつ》と手帳を出して筆記をはじめました。
 その時教室にパッと電燈《でんとう》がつきました。もう夕方だったのです。博士が向うで叫んでいます。
「しからば何が故《ゆえ》に夕方緑色が判然とするか。けだしこれはプウルウキインイイの現象によるのである。プウルウキインイイとはこう書く。」
 博士はみみずのような横文字を一ぺんに三百ばかり書きました。ネネムも一生けん命書きました。それから博士は俄かに手を大きくひろげて
「げにも、かの天にありて濛々《もうもう》たる星雲、地にありてはあいまいたるばけ物律、これはこれ宇宙を支配す。」と云いながらテーブルの上に飛びあがって腕《うで》を組み堅く口を結んできっとあたりを見まわしました。
 学生どもはみんな興奮して
「ブラボオ。フゥフィーボー先生。ブラボオ。」と叫《さけ》んでそれからバタバタ、ノートを閉じました。ネネムもすっかり釣《つ》り込《こ》まれて、
「ブラボオ。」と叫んで堅く堅く決心したように口を結びました。この時先生はやっとほんのすこうし笑って一段声を低くして云いました。
「みなさん。これからすぐ卒業試験にかかります。一
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