ネンネンネン・ネネム裁判長
 その威《い》オキレの金角とならび
 まひるクラレの花の丘に立ち
 遠い青びかりのサンムトリに命令する。

 青びかりの三角のサンムトリが
 たちまち火柱を空にささげる。
 風が来てクラレの花がひかり
 ペンネンネンネンネン・ネネムは高く笑う。
  ブラボオ。ペンネンネンネンネン・ネネム
  ブラボオ、ペンペンペンペンペン・ペネム。」
[#ここで字下げ終わり]
 その時サンムトリが丁度第四回の爆発をやりました。
「ガアン、ドロドロドロドロ、ノンノンノンノンノン。」
 ネネムをはじめばけものの検事も判事もみんな夢中《むちゅう》になって歌ってはねて踊《おど》りました。
[#ここから1字下げ]
「フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
 風が青ぞらを吼《ほ》えて行けば
 そのなごりが地面に下って
 クラレの花がさんさんと光り
 おれたちの袍《ほう》はひるがえる。
 さっきかけて行った風が
 いまサンムトリに届いたのだ。
 そのまっ黒なけむりの柱が
 向うの方に倒《たお》れて行く。
 フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
  ブラボオ、ペンネンネンネンネン・ネネム
  ブラボオ、ペンペンペンペンペン・ペネム。

 おれたちの叫び声は地面をゆすり
 その波は一分に二十五ノット
 サンムトリの熱い岩漿《がんしょう》にとどいて
 とうとうも一度爆発をやった。
 フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
 フィーガロ、フィガロト、フィガロット。」
[#ここで字下げ終わり]
 ネネムは踊ってあばれてどなって笑ってはせまわりました。
 その時どうしたはずみか、足が少し悪い方へそれました。
 悪い方というのはクラレの花の咲いたばけもの世界の野原の一寸《ちょっと》うしろのあたり、うしろと云うよりは少し前の方でそれは人間の世界なのでした。
「あっ。裁判長がしくじった。」
と誰《たれ》かがけたたましく叫んでいるようでしたが、ネネムはもう頭がカアンと鳴ったまままっ黒なガツガツした岩の上に立っていました。
 すぐ前には本当に夢《ゆめ》のような細い細い路《みち》が灰色の苔《こけ》の中をふらふらと通っているのでした。そらがまっ白でずうっと高く、うしろの方はけわしい坂で、それも間もなくいちめんのまっ白な雲の中に消えていました。
 どこにたった今歌っていたあのばけもの世界のクラ
前へ 次へ
全31ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング