ラボオ、ネネム裁判長。」
ネネムはしずかに笑って居りました。その得意な顔はまるで青空よりもかがやき、上等の瑠璃《るり》よりも冴《さ》えました。そればかりでなく、みんなのブラボオの声は高く天地にひびき、地殻がノンノンノンノンとゆれ、やがてその波がサンムトリに届いたころ、サンムトリがその影響《えいきょう》を受けて火柱高く第二の爆発《ばくはつ》をやりました。
「ガーン、ドロドロドロドロ、ノンノンノンノン。」
それから風がどうっと吹いて行って、火山弾や熱い灰やすべてあぶないものがこの立派なネネムの方に落ちて来ないように山の向うの方へ追い払《はら》ったのでした。ネネムはこの時は正によろこびの絶頂でした。とうとう立ちあがって高く歌いました。
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「おれは昔は森の中の昆布《こんぶ》取り、
その昆布|網《あみ》が空にひろがったとき
風の中のふかやさめがつきあたり
おれの手がぐらぐらとゆれたのだ。
おれはフウフィーヴオ博士の弟子《でし》
博士はおれの出した筆記帳を
あくびと一しょにスポリと呑《の》みこんだ。
それから博士は窓から飛んで出た。
おれはむかし奇術師のテジマアに
おれの妹をさらわれていた。
その奇術師のテジマアのところで
おれの妹はスタアになっていた。
いまではおれは勲章《くんしょう》が百ダアス
藁《わら》のオムレツももうたべあきた。
おれの裁断には地殻も服する
サンムトリさえ西瓜《すいか》のように割れたのだ。」
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さあ三十人の部下の判事と検事はすっかりつり込まれて一緒に立ち上がって、
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「ブラボオ、ペンネンネンネンネン・ネネム
ブラボオ、ペンペンペンペンペン・ペネム。」
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と叫びながら踊りはじめました。
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「フィーガロ、フィガロト、フィガロット。」
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クラレの花がきらきら光り、クラレの茎《くき》がパチンパチンと折れ、みんなの影法師はまるで戦のように乱れて動きました。向うではサンムトリが第三回の爆発をやっています。
「ガアン、ドロドロドロドロ、ノンノンノンノン。」
黄金《きん》の熔岩《ようがん》、まっ黒なけむり。
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「フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
ペンネン
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