そうな、ことはこの日も同じだ。その晩豚はあんまりに神経が興奮し過ぎてよく睡《ねむ》ることができなかった。ところが次の朝になって、やっと太陽が登った頃、寄宿舎の生徒が三人、げたげた笑って小屋へ来た。そして一晩睡らないで、頭のしんしん痛む豚に、又もや厭《いや》な会話を聞かせたのだ。
「いつだろうなあ、早く見たいなあ。」
「僕《ぼく》は見たくないよ。」
「早いといいなあ、囲って置いた葱《ねぎ》だって、あんまり永いと凍《こお》っちまう。」
「馬鈴薯《ばれいしょ》もしまってあるだろう。」
「しまってあるよ。三|斗《と》しまってある。とても僕たちだけで食べられるもんか。」
「今朝はずいぶん冷たいねえ。」一人が白い息を手に吹きかけながら斯《こ》う云いました。
「豚のやつは暖かそうだ。」一人が斯う答えたら三人共どっとふき出しました。
「豚のやつは脂肪でできた、厚さ一寸の外套《がいとう》を着てるんだもの、暖かいさ。」
「暖かそうだよ。どうだ。湯気さえほやほやと立っているよ。」
豚はあんまり悲しくて、辛《つら》くてよろよろしてしまう。
「早くやっちまえばいいな。」
三人はつぶやきながら小屋を出た。その
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