い、ございます。」
「こいつは縛《しば》って置き給え。いや縛る前に早く承諾書をとらなくちゃ。校長もさっぱり拙《まず》いなぁ。」
畜産の教師は大急ぎで、教舎の方へ走って行き、助手もあとから出て行った。
間もなく農学校長が、大へんあわててやって来た。豚は身体《からだ》の置き場もなく鼻で敷藁を掘《ほ》ったのだ。
「おおい、いよいよ急がなきゃならないよ。先頃《せんころ》の死亡承諾書ね、あいつへ今日はどうしても、爪判を押して貰いたい。別に大した事じゃない。押して呉れ。」
「いやですいやです。」豚は泣く。
「厭《いや》だ? おい。あんまり勝手を云うんじゃない、その身体《からだ》は全体みんな、学校のお陰で出来たんだ。これからだって毎日麦のふすま二升阿麻仁二合と玉蜀黍の、粉五合ずつやるんだぞ、さあいい加減に判をつけ、さあつかないか。」
なるほど斯《こ》う怒《おこ》り出して見ると、校長なんというものは、実際恐いものなんだ。豚はすっかりおびえて了《しま》い、
「つきます。つきます。」と、かすれた声で云ったのだ。
「よろしい、では。」と校長は、やっとのことに機嫌《きげん》を直し、手早くあの死亡承諾書の
前へ
次へ
全27ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング