笛を又吹きながら出て行った。いつか窓がすっかり明け放してあったので豚は寒くて耐《たま》らなかった。
 こんな工合《ぐあい》にヨークシャイヤは一日思いに沈《しず》みながら三日を夢《ゆめ》のように送る。
 四日目に又畜産の、教師が助手とやって来た。ちらっと豚を一眼見て、手を振《ふ》りながら助手に云う。
「いけないいけない。君はなぜ、僕の云った通りしなかった。」
「いいえ、窓もすっかり明けましたし、キャベジのいいのもやりました。運動も毎日叮寧に、十五分ずつやらしています。」
「そうかね、そんなにまでもしてやって、やっぱりうまくいかないかね、じゃもうこいつは瘠《や》せる一方なんだ。神経性営養不良なんだ。わきからどうも出来やしない。あんまり骨と皮だけに、ならないうちにきめなくちゃ、どこまで行くかわからない。おい。窓をみなしめて呉れ。そして肥育器を使うとしよう、飼料をどしどし押し込んで呉れ。麦のふすまを二升とね、阿麻仁《あまに》を二合、それから玉蜀黍《とうもろこし》の粉を、五合を水でこねて、団子にこさえて一日に、二度か三度ぐらいに分けて、肥育器にかけて呉れ給《たま》え。肥育器はあったろう。」
「は
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