い》そうだからたべてはならんといい、世界中にこれを強《し》いようとする。これがビジテリアンである。この主張は、実に、人類の食物の半分を奪おうと企《くわだ》てるものである。換言《かんげん》すれば、この主張者たちは、世界人類の半分、則ち十億人を饑餓《きが》によって殺そうと計画するものではないか。今日いずれの国の法律を以《もっ》てしても、殺人罪は一番重く罰《ばっ》せられる。間接ではあるけれども、ビジテリアンたちも又この罪を免《まぬか》れない。近き将来、各国から委員が集って充分《じゅうぶん》商議の上厳重に処罰されるのはわかり切ったことである。又この事実は、ビジテリアンたちの主張が、畢竟《ひっきょう》自家撞着《じかどうちゃく》に終ることを示す。則ちビジテリアンは動物を愛するが故《ゆえ》に動物を食べないのであろう。何が故にその為に食物を得ないで死亡する、十億の人類を見殺しにするのであるか。人類も又動物ではないか。」
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「こいつは面白《おもしろ》い。実に名論だ。文章も実に珍無類《ちんむるい》だ。実に面白い。」トルコの地学博士はその肥《ふと》った顔を、まるで張り裂《さ》けるよう
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