お》しました。
 すぐ赭《あか》ら顔の白髪《はくはつ》の元気のよさそうなおじいさんが、かなづちを持ってよこの室《へや》から顔〔以下原稿数枚なし〕

が、桃《もも》いろの紙に刷られた小さなパンフレットを、十枚ばかり持って入って来ました。
「お早うございます。なあに却《かえ》って御愛嬌《ごあいきょう》ですよ。」
「お早うございます。どうか一枚拝見。」
 私はパンフレットを手にとりました。それは今ももっていますが斯《こ》う書いてあったのです。
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「◎偏狭《へんきょう》非文明的なるビジテリアンを排《はい》す。
マルサスの人口論は、今日定性的には誰も疑うものがない。その要領は人類の居住すべき世界の土地は一定である、又その食料品は等差級数的に増加するだけである、然《しか》るに人口は等比級数的に多くなる。則《すなわ》ち人類の食料はだんだん不足になる。人類の食料と云えば蓋《けだ》し動物植物鉱物の三種を出《い》でない。そのうち鉱物では水と食塩とだけである。残りは植物と動物とが約半々を占《し》める。ところが茲《ここ》にごく偏狭な陰気《いんき》な考の人間の一群があって、動物は可哀《かあ
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