そのあとはもう異教徒席も異派席もしいんとしてしまって誰《たれ》も演壇に立つものがありませんでした。祭司次長がしばらく式場を見まわして今のざわめきが静まってから落ちついて異教徒席へ行きました。ほかにお立ちの方はありませんかとでも云ったようでしたが誰もしんとして答えるものがありませんでしたので次長は一寸《ちょっと》礼をして引き下がりました。
「すっかり参ったようですね。」陳氏が私に云いました。私も実際|嬉《うれ》しかったのです。あんなに頑強《がんきょう》に見えたシカゴ軍があんまりもろく粉砕《ふんさい》されたからです。斯《こ》う云ってはなんだか野球のようですが全くそうでした。そこで電鈴《でんれい》がずいぶん永く鳴りました。そのすきとおった音に私の興奮した心はもう一ぺん透明《とうめい》なニュウファウンドランドの九月というような気分に戻《もど》りました。みんなもそうらしかったのです。陳氏は
「私はもう一発やって来ますから。」と云いながら立ちあがって出て行きました。
 その時です。神学博士がまたしおしおと壇に立ちました。そしてしょんぼりと礼をして云ったのです。
「諸君、今日私は神の思召《おぼ
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