》に拍手しました。その人はぶるぶるふるえる手でコップに水をついでのみました。コップの外へも水がすこしこぼれました。そのふるえようがあんまりひどいので私は少し神経病の疑《うたがい》さえももちました。ところが水をのむとその人は俄かにピタッと落ち着きました。それからごくしずかに何か云いそうに口をしましたがその語《ことば》はなかなか出て来ませんでした。みんなはしんとなりました。その人は突然《とつぜん》爆発《ばくはつ》するように叫《さけ》びました。二三度どもりました。
「な、な、な何が故《ゆえ》に、何が故に、君たちはど、ど、動物を食わないと云いながら、ひ、ひ、ひ、羊、羊の毛のシャッポをかぶるか。」その人は興奮の為にガタガタふるえてそれからやけに水をのみました。さあ大へんです。テントの中は割《さ》けるばかりの笑い声です。
陳氏ももう手を叩《たた》いてころげまわってから云いました。
「まるでジョン・ヒルガードそっくりだ。」
「ジョン・ヒルガードって何です。」私は訊《たず》ねました。
「喜劇役者ですよ。ニュウヨーク座の。けれどもヒルガードには眉間にあんな傷痕《きずあと》がありません。」
「なるほど。
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