飛鳥《りゅううんひちょう》といいます。柳はサリックス、バビロニカ、です。飛鳥は燕《スワロウ》です。日本でも、柳と燕《つばめ》を云いますか。」
「云います。そしてよく覚えませんが、たしか私の方にも、その狼煙はあった筈《はず》ですよ。いや花火だったかな。それとも柳にけまりだったかな。」
「日本の花火の名所は、東京両国橋ですね。」
「ええそのほか岩国とか石の巻とか、あちこちにもあります。」
「なるほど。さあ、支度。」陳氏は二人の子供に向きました。一人の子は恭しくバスケットから、狼煙玉を持ち出しました。陳氏はそれを受けとってよく調べてから、
「よろしい。口火。」と云いました。も一人の子は、もう手に口火を持って待っていました。陳氏はそれを受けとりました。はじめの子は、シュッとマッチをすりました。陳氏はそれに口火をあてて、急いでのろし筒《づつ》に投げ込みました。しばらくたって、「ドーン」けむりと一緒《いっしょ》に、さっきの玉は、汽車ぐらいの速さで青ぞらにのぼって行きました。二人の子供も、恭しく腕《うで》を拱いて、それを見上げていました。たちまち空で白いけむりが起り、ポンポンと音が下って来それから青
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