は、教会の広庭に、大きな曲馬用の天幕《テント》を張って、テニスコートなどもそのまま中に取り込んでいたようでした。とてもその人数の入るような広間は、恐《おそ》らくニュウファウンドランド全島にもなかったでしょう。
 もう気の早い信徒たちが二百人ぐらい席について待っていました。笑い声が波のように聞えました。やっぱり今朝のパンフレットの話などが多かったのでしょう。
 その式場を覆《おお》う灰色の帆布《はんぷ》は、黒い樅《もみ》の枝《えだ》で縦横に区切られ、所々には黄や橙《だいだい》の石楠花《しゃくなげ》の花をはさんでありました。何せそう云ういい天気で、帆布が半透明《はんとうめい》に光っているのですから、実にその調和のいいこと、もうこここそやがて完成さるべき、世界ビジテリアン大会堂の、陶製《とうせい》の大天井《だいてんじょう》かと思われたのであります。向うには勿論花で飾られた高い祭壇《さいだん》が設けられていました。そのとき、私は又、あの狼煙《のろし》の音を聞きました。はっと気がついて、私は急いでその音の方教会の裏手へ出て行って見ました。やっぱり陳氏でした。陳氏は小さな支那の子供の狼煙の助手も二
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