行く途中《とちゅう》、あっちの小路からも、こっちの広場からも、三人四人ずついろいろな礼装をした人たちに、私たちは会いました。燕尾服《えんびふく》もあれば厚い粗羅紗《そらしゃ》を着た農夫もあり、綬《じゅ》をかけた人もあれば、スラッと瘠《や》せた若い軍医もありました。すべてこれらは、私たちの兄弟でありましたから、もう私たちは国と階級、職業とその名とをとわず、ただ一つの大きなビジテリアンの同朋《どうぼう》として、「お早う、」と挨拶《あいさつ》し「おめでとう、」と答えたのです。そして私たちは、いつかぞろぞろ列になっていました。列になって教会の門を入ったのです。一昨日《おととい》別段気にもとめなかった、小さなその門は、赤いいろの藻《そう》類と、暗緑の栂《つが》とで飾《かざ》られて、すっかり立派に変っていました。門をはいると、すぐ受付があって私たちはみんな求められて会員証を示しました。これはいかにも偏狭《へんきょう》なやり方のようにどなたもお考えでしょうが、実際今朝の反対宣伝のような訳で、どんなものがまぎれ込んで来て、何をするかもわからなかったのですから、全く仕方なかったのでありましょう。
 式場
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