の始まるまでは、まだ一時間もありましたけれども、斯《こ》うにぎやかにやられては、とてもじっとして居られません、私たちは、大急ぎで二階に帰って、礼装《れいそう》をしたのです。土耳古《トルコ》人たちは、みんなまっ赤なターバンと帯とをかけ、殊《こと》に地学博士はあちこちからの勲章《くんしょう》やメタルを、その漆黒《しっこく》の上着にかけましたので全くまばゆい位でした。私は三越でこさえた白い麻《あさ》のフロックコートを着ましたが、これは勿論《もちろん》、私の好みで作法ではありません。けれども元来きものというものは、東洋風に寒さをしのぐという考《かんがえ》も勿論ですが、一方また、カーライルの云う通り、装飾《そうしょく》が第一なので結局その人にあった相当のものをきちんとつけているのが一等ですから、私は一向何とも思いませんでした。実際きものは自分のためでなく他人の為《ため》です。自分には自分の着ているものが全体見えはしませんからほかの人がそれを見て、さっぱりした気持ちがすればいいのであります。
 さて私たちは宿を出ました。すると式の時間を待ち兼ねたのは、あながち私たちだけではありませんでした。教会へ
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