斯う云いました。
「調子が変なばかりじゃない、議論がみんな都合のいいようにばかり仕組んであるよ。どうせ畜産組合の宣伝書だ。」と一人のトルコ人が云いました。
そのとき又向うからラッパが鳴って来ました。ガソリンの音も聞えます。正直を云いますと私もこの時は少し胸がどきどきしました。さっそく又一台の赤自動車がやって来て小さな白い紙を撒いて行ったのです。
そのパンフレットを私たちはせわしく読みました。それには赤い字で斯《こ》う書いてあったのです。
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「ビジテリアン諸氏に寄す。
諸君がどんなに頑張《がんば》って、馬鈴薯《ばれいしょ》とキャベジ、メリケン粉ぐらいを食っていようと、海岸ではあんまりたくさん魚がとれて困る。折角《せっかく》死んでも、それを食べて呉《く》れる人もなし、可哀そうに、魚はみんなシャベルで釜《かま》になげ込《こ》まれ、煮えるとすくわれて、締木《しめぎ》にかけて圧搾《あっさく》される。釜に残った油の分は魚油です。今は一|缶《かん》十セントです。鰯《いわし》なら一缶がまあざっと七百|疋《ぴき》分ですねえ、締木にかけた方は魚粕《うおかす》です、一キログラム六
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