て巡査《じゅんさ》をやったんですか。」
「それぁやりました。けれども間もなくやめたんです。」
「どうしてやめたんだろうなあ、何でも隊《たい》に来る前は、大工でとにかく暮《くら》していたと云《い》うんですが。」
「それゃうそでさあ大工もほんのちょっとです。土方《どかた》をやめてなったんです。その土方もまたちょっとです。それから前は知りません。土方ばかりじゃありません、飴屋《あめや》もやったて云《い》いますよ。」
「巡査をどうしてやめたんです。」「あんな巡査じゃだめでさあ、あのお神明《しんめい》さんの池ね、あすこに鯉《こい》が居《い》るでしょう、県の規則《きそく》で誰《だれ》にもとらせないんです。ところが、やっぱり夜のうちに、こっそり行くものがあるんです。それぁきっとよく捕《と》れるんでしょう。バキチはそれをきいたのです。毎晩《まいばん》お神明さんの、杉《すぎ》のうしろにかくれていて、来るやつを見ていたそうです、そしていよいよ網《あみ》を入れて鯉が十|疋《ぴき》もとれたとき、誰だっこらって出るんでしょう、魚も網も置《お》いたまま一目散《いちもくさん》に逃《に》げるでしょうバキチは笑《わら》
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