シグナルさんもあんまりだわ、あたしが言《い》えないでお返事《へんじ》もできないのを、すぐあんなに怒《おこ》っておしまいになるなんて。あたしもう何もかもみんなおしまいだわ。おお神様《かみさま》、シグナルさんに雷《かみなり》を落《お》とす時、いっしょに私にもお落としくださいませ」
 こう言《い》って、しきりに星空に祈《いの》っているのでした。ところがその声が、かすかにシグナルの耳にはいりました。シグナルはぎょっとしたように胸《むね》を張《は》って、しばらく考えていましたが、やがてガタガタふるえだしました。
 ふるえながら言いました。
「シグナレスさん。あなたは何《なに》を祈っておられますか」
「あたし存《ぞん》じませんわ」シグナレスは声を落として答えました。
「シグナレスさん、それはあんまりひどいお言葉《ことば》でしょう。僕《ぼく》はもう今すぐでもお雷《らい》さんにつぶされて、または噴火《ふんか》を足もとから引っぱり出して、またはいさぎよく風に倒《たお》されて、またはノアの洪水《こうずい》をひっかぶって、死《し》んでしまおうと言うんですよ。それだのに、あなたはちっとも同情《どうじょう》して
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