《ひ》が射《さ》して参《まい》りました。
五日の月が、西の山脈《さんみゃく》の上の黒い横雲《よこぐも》から、もう一ぺん顔を出して、山に沈《しず》む前のほんのしばらくを、鈍《にぶ》い鉛《なまり》のような光で、そこらをいっぱいにしました。冬がれの木や、つみ重《かさ》ねられた黒い枕木《まくらぎ》はもちろんのこと、電信柱《でんしんばしら》までみんな眠《ねむ》ってしまいました。遠くの遠くの風の音か水の音がごうと鳴るだけです。
「ああ、僕《ぼく》はもう生きてるかいもないんだ。汽車が来るたびに腕《うで》を下げたり、青い眼鏡《めがね》をかけたりいったいなんのためにこんなことをするんだ。もうなんにもおもしろくない。ああ死《し》のう。けれどもどうして死ぬ。やっぱり雷《かみなり》か噴火《ふんか》だ」
本線《ほんせん》のシグナルは、今夜も眠《ねむ》られませんでした。非常《ひじょう》なはんもんでした。けれどもそれはシグナルばかりではありません。枕木の向こうに青白くしょんぼり立って、赤い火をかかげている軽便鉄道《けいべんてつどう》のシグナル、すなわちシグナレスとても全《まった》くそのとおりでした。
「ああ、
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