》や黄色の点々、さまざまの夢《ゆめ》を見ている時、若いあわれなシグナルはほっと小さなため息《いき》をつきました。そこで半分|凍《こご》えてじっと立っていたやさしいシグナレスも、ほっと小さなため息をしました。
「シグナレスさん、ほんとうに僕《ぼく》たちはつらいねえ」
 たまらずシグナルがそっとシグナレスに話しかけました。
「ええ、みんなあたしがいけなかったのですわ」シグナレスが青じろくうなだれて言《い》いました。
 諸君《しょくん》、シグナルの胸《むね》は燃《も》えるばかり、
「ああ、シグナレスさん、僕たちたった二人だけ、遠くの遠くのみんなのいないところに行ってしまいたいね」
「ええ、あたし行けさえするなら、どこへでも行きますわ」
「ねえ、ずうっとずうっと天上にあの僕《ぼく》たちの婚約指環《エンゲージリング》よりも、もっと天上に青い小さな小さな火が見えるでしょう。そら、ね、あすこは遠いですねえ」
「ええ」シグナレスは小さな唇《くちびる》で、いまにもその火にキッスしたそうに空を見あげていました。
「あすこには青い霧《きり》の火が燃《も》えているんでしょうね。その青い霧の火の中へ僕たちいっし
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