京まで手をまわして風下《かざしも》にいる軽便鉄道《けいべんてつどう》の電信柱に、シグナルとシグナレスの対話《たいわ》がいったいなんだったか、今シグナレスが笑ったことは、どんなことだったかたずねてやりました。
ああ、シグナルは一生の失策《しっさく》をしたのでした。シグナレスよりも少し風下にすてきに耳のいい長い長い電信柱がいて、知らん顔をしてすまして空の方を見ながらさっきからの話をみんな聞いていたのです。そこでさっそく、それを東京を経《へ》て本線シグナルつきの電信柱に返事《へんじ》をしてやりました。本線《ほんせん》シグナルつきの電信柱《でんしんばしら》はキリキリ歯《は》がみをしながら聞いていましたが、すっかり聞いてしまうと、さあ、まるでばかのようになってどなりました。
「くそっ、えいっ。いまいましい。あんまりだ。犬畜生《いぬちくしょう》、あんまりだ。犬畜生、ええ、若《わか》さま、わたしだって男ですぜ。こんなにひどくばかにされてだまっているとお考えですか。結婚《けっこん》だなんてやれるならやってごらんなさい。電信柱の仲間《なかま》はもうみんな反対《はんたい》です。シグナル柱の人たちだって鉄
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