本線《ほんせん》シグナルつきの電信柱《でんしんばしら》が、むしゃくしゃまぎれに、ごうごうの音の中を途方《とほう》もない声でどなったもんですから、シグナルはもちろんシグナレスも、まっ青《さお》になってぴたっとこっちへ曲げていたからだを、まっすぐに直《なお》しました。
「若《わか》さま、さあおっしゃい。役目《やくめ》として承《うけたまわ》らなければなりません」
シグナルは、やっと元気を取り直《なお》しました。そしてどうせ風のために何を言《い》っても同じことなのをいいことにして、
「ばか、僕《ぼく》はシグナレスさんと結婚《けっこん》して幸福《こうふく》になって、それからお前にチョークのお嫁《よめ》さんをくれてやるよ」と、こうまじめな顔で言ったのでした。その声は風下《かざしも》のシグナレスにはすぐ聞こえましたので、シグナレスはこわいながら思わず笑《わら》ってしまいました。さあそれを見た本線《ほんせん》シグナルつきの電信柱の怒《おこ》りようと言ったらありません。さっそくブルブルッとふるえあがり、青白く逆上《のぼ》せてしまい唇《くちびる》をきっとかみながらすぐひどく手をまわして、すなわち一ぺん東
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