》はほうほう 汗《あせ》が出る。
  もう七、八|里《り》 はせたいな、
  今日も一日 霜ぐもり。
 ガタンガタン、ギー、シュウシュウ」
[#ここで字下げ終わり]

 軽便鉄道《けいべんてつどう》の東からの一番|列車《れっしゃ》が少しあわてたように、こう歌いながらやって来てとまりました。機関車《きかんしゃ》の下からは、力のない湯《ゆ》げが逃《に》げ出して行き、ほそ長いおかしな形の煙突《えんとつ》からは青いけむりが、ほんの少うし立ちました。
 そこで軽便鉄道づきの電信柱《でんしんばしら》どもは、やっと安心《あんしん》したように、ぶんぶんとうなり、シグナルの柱はかたんと白い腕木《うでき》を上げました。このまっすぐなシグナルの柱は、シグナレスでした。
 シグナレスはほっと小さなため息《いき》をついて空を見上げました。空にはうすい雲が縞《しま》になっていっぱいに充《み》ち、それはつめたい白光《しろびかり》を凍《こお》った地面《じめん》に降《ふ》らせながら、しずかに東に流《なが》れていたのです。
 シグナレスはじっとその雲の行《ゆ》く方《え》をながめました。それからやさしい腕木を思い切りそっち
前へ 次へ
全29ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング