シグナルさんもあんまりだわ、あたしが言《い》えないでお返事《へんじ》もできないのを、すぐあんなに怒《おこ》っておしまいになるなんて。あたしもう何もかもみんなおしまいだわ。おお神様《かみさま》、シグナルさんに雷《かみなり》を落《お》とす時、いっしょに私にもお落としくださいませ」
こう言《い》って、しきりに星空に祈《いの》っているのでした。ところがその声が、かすかにシグナルの耳にはいりました。シグナルはぎょっとしたように胸《むね》を張《は》って、しばらく考えていましたが、やがてガタガタふるえだしました。
ふるえながら言いました。
「シグナレスさん。あなたは何《なに》を祈っておられますか」
「あたし存《ぞん》じませんわ」シグナレスは声を落として答えました。
「シグナレスさん、それはあんまりひどいお言葉《ことば》でしょう。僕《ぼく》はもう今すぐでもお雷《らい》さんにつぶされて、または噴火《ふんか》を足もとから引っぱり出して、またはいさぎよく風に倒《たお》されて、またはノアの洪水《こうずい》をひっかぶって、死《し》んでしまおうと言うんですよ。それだのに、あなたはちっとも同情《どうじょう》してくださらないんですか」
「あら、その噴火や洪水《こうずい》を。あたしのお祈りはそれよ」シグナレスは思い切って言いました。シグナルはもううれしくて、うれしくて、なおさらガタガタガタガタふるえました。
その赤い眼鏡《めがね》もゆれたのです。
「シグナレスさん、なぜあなたは死ななけぁならないんですか。ね。僕《ぼく》へお話しください。ね。僕へお話しください。きっと、僕はそのいけないやつを追《お》っぱらってしまいますから、いったいどうしたんですね」
「だって、あなたがあんなにお怒《おこ》りなさるんですもの」
「ふふん。ああ、そのことですか。ふん。いいえ。そのことならばご心配《しんぱい》ありません。大丈夫《だいじょうぶ》です。僕ちっとも怒ってなんかいはしませんからね。僕、もうあなたのためなら、眼鏡《めがね》をみんな取《と》られて、腕《うで》をみんなひっぱなされて、それから沼《ぬま》の底《そこ》へたたき込《こ》まれたって、あなたをうらみはしませんよ」
「あら、ほんとう。うれしいわ」
「だから僕を愛《あい》してください。さあ僕を愛するって言《い》ってください」
五日のお月さまは、この時雲と山の端《
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