は》とのちょうどまん中にいました。シグナルはもうまるで顔色を変《か》えて灰色《はいいろ》の幽霊《ゆうれい》みたいになって言いました。
「またあなたはだまってしまったんですね。やっぱり僕がきらいなんでしょう。もういいや、どうせ僕なんか噴火《ふんか》か洪水《こうずい》か風かにやられるにきまってるんだ」
「あら、ちがいますわ」
「そんならどうですどうです、どうです」
「あたし、もう大昔《おおむかし》からあなたのことばかり考えていましたわ」
「本当ですか、本当ですか、本当ですか」
「ええ」
「そんならいいでしょう。結婚《けっこん》の約束《やくそく》をしてください」
「でも」
「でもなんですか、僕《ぼく》たちは春になったら燕《つばめ》にたのんで、みんなにも知らせて結婚《けっこん》の式《しき》をあげましょう。どうか約束《やくそく》してください」
「だってあたしはこんなつまらないんですわ」
「わかってますよ。僕にはそのつまらないところが尊《とうと》いんです」
 すると、さあ、シグナレスはあらんかぎりの勇気《ゆうき》を出して言《い》い出しました。
「でもあなたは金でできてるでしょう。新式でしょう。赤青眼鏡《あかあおめがね》を二組みも持《も》っていらっしゃるわ、夜も電燈《でんとう》でしょう。あたしは夜だってランプですわ、眼鏡もただ一つきり、それに木ですわ」
「わかってますよ。だから僕はすきなんです」
「あら、ほんとう。うれしいわ。あたしお約束《やくそく》するわ」
「え、ありがとう、うれしいなあ、僕もお約束しますよ。あなたはきっと、私の未来《みらい》の妻《つま》だ」
「ええ、そうよ、あたし決《けっ》して変《か》わらないわ」
「結婚指環《エンゲージリング》をあげますよ、そら、ね、あすこの四つならんだ青い星ね」
「ええ」
「あのいちばん下の脚《あし》もとに小さな環《わ》が見えるでしょう、環状星雲《フィッシュマウスネビュラ》ですよ。あの光の環ね、あれを受《う》け取《と》ってください。僕のまごころです」
「ええ。ありがとう、いただきますわ」
「ワッハッハ。大笑《おおわら》いだ。うまくやってやがるぜ」
 突然《とつぜん》向《む》こうのまっ黒な倉庫《そうこ》が、空にもはばかるような声でどなりました。二人はまるでしんとなってしまいました。
 ところが倉庫がまた言《い》いました。
「いや心配《しんぱい
前へ 次へ
全15ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング