ただ一とこお日さまのあるところらしく白くぼんやり光っていました。
「おい、ちょうざめ、いいものをやるぞ。出て来い。」犬神は一つの穴《あな》に向《むか》って叫びました。
 タネリは小さくなってしゃがんでいました。気がついて見るとほんとうにタネリは大きな一ぴきの蟹《かに》に変《かわ》っていたのです。それは自分の両手《りょうて》をひろげて見ると両側《りょうがわ》に八本になって延《の》びることでわかりました。「ああなさけない。おっかさんの云《い》うことを聞かないもんだからとうとうこんなことになってしまった。」タネリは辛《から》い塩水《しおみず》の中でぼろぼろ涙《なみだ》をこぼしました。犬神《いぬがみ》はおかしそうに口をまげてにやにや笑《わら》ってまた云いました。「ちょうざめ、どうしたい。」するとごほごほいやなせきをする音がしてそれから「どうもきのこにあてられてね。」ととても苦《くる》しそうな声がしました。「そうか。そいつは気の毒《どく》だ。実《じつ》はね、おまえのとこに下男《げなん》がなかったもんだから今日《きょう》一人|見附《みつ》けて来てやったんだ。蟹にしておいたがね、ぴしぴし遠慮《えんり
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