サガレンと八月
宮沢賢治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)吹《ふ》いて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)何|冊《さつ》
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「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、何かしらべに来たの。」
西の山地から吹《ふ》いて来たまだ少しつめたい風が私の見すぼらしい黄いろの上着《うわぎ》をぱたぱたかすめながら何べんも通って行きました。
「おれは内地の農林《のうりん》学校の助手《じょしゅ》だよ、だから標本《ひょうほん》を集《あつ》めに来たんだい。」私はだんだん雲の消《き》えて青ぞらの出て来る空を見ながら、威張《いば》ってそう云《い》いましたらもうその風は海の青い暗《くら》い波《なみ》の上に行っていていまの返事《へんじ》も聞かないようあとからあとから別《べつ》の風が来て勝手《かって》に叫《さけ》んで行きました。
「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、しらべに来たの、何かしらべに来たの。」もう相手《あいて》にならないと思いながら私はだまって海の方を見ていましたら風は親切《しんせつ》にまた叫ぶのでした。
「何してるの、何を考えてるの、何か見
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