てからぶつぶつ呟《つぶや》くように答えました。「おれはまた、おまえたちならきっと何かにしなけぁ済《す》まないものと思ってたんだ。」
 私はどきっとして顔を赤くしてあたりを見まわしました。
 ほんとうにその返事《へんじ》は謙遜《けんそん》な申《もう》し訳《わ》けのような調子《ちょうし》でしたけれども私はまるで立っても居《い》てもいられないように思いました。
 そしてそれっきり浪《なみ》はもう別《べつ》のことばで何べんも巻《ま》いて来ては砂《すな》をたててさびしく濁《にご》り、砂を滑《なめ》らかな鏡《かがみ》のようにして引いて行っては一きれの海藻《かいそう》をただよわせたのです。
 そして、ほんとうに、こんなオホーツク海のなぎさに座《すわ》って乾《かわ》いて飛《と》んで来る砂やはまなすのいい匂《におい》を送《おく》って来る風のきれぎれのものがたりを聴《き》いているとほんとうに不思議《ふしぎ》な気持《きもち》がするのでした。それも風が私にはなしたのか私が風にはなしたのかあとはもうさっぱりわかりません。またそれらのはなしが金字の厚《あつ》い何|冊《さつ》もの百科辞典《ひゃっかじてん》にあるよう
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