ンレツ者。あるけ、早く。」と、捕り手のねずみは言いました。さあ、そこでクねずみはすっかり恐れ入ってしおしおと立ちあがりました。あっちからもこっちからもねずみがみんな集まって来て、
「どうもいい気味だね。いつでもエヘンエヘンと言ってばかりいたやつなんだ。」
「やっぱり分裂していたんだ。」
「あいつが死んだらほんとうにせいせいするだろうね。」というような声ばかりです。
捕り手のねずみは、いよいよ白いたすきをかけて、暗殺のしたくをはじめました。
その時みんなのうしろの方で、フウフウと言うひどい音が聞こえ、二つの目玉が火のように光って来ました。それは例の猫大将《ねこたいしょう》でした。
「ワーッ。」とねずみはみんなちりぢり四方に逃げました。
「逃がさんぞ。コラッ。」と猫大将はその一匹を追いかけましたが、もうせまいすきまへずうっと深くもぐり込んでしまったので、いくら猫大将が手をのばしてもとどきませんでした。
猫大将は「チェッ。」と舌打ちをして戻って来ましたが、クねずみのただ一匹しばられて残っているのを見て、びっくりして言いました。
「貴様はなんと言うものだ。」クねずみはもう落ち着いて答えました。
「クと申します。」
「フ、フ、そうか、なぜこんなにしているんだ。」
「暗殺されるためです。」
「フ、フ、フ。そうか。それはかあいそうだ。よしよし、おれが引き受けてやろう。おれのうちへ来い。ちょうどおれのうちでは、子供が四人できて、それに家庭教師がなくて困っているところなんだ。来い。」
猫大将はのそのそ歩きだしました。
クねずみはこわごわあとについて行きました。猫のおうちはどうもそれは立派なもんでした。紫色の竹で編んであって中はわらや布きれでホクホクしていました。おまけにちゃあんとご飯を入れる道具さえあったのです。
そしてその中に、猫大将《ねこたいしょう》の子供が四人、やっと目をあいて、にゃあにゃあと鳴いておりました。
猫大将は子供らを一つずつなめてやってから言いました。
「お前たちはもう学問をしないといけない。ここへ先生をたのんで来たからな。よく習うんだよ。決して先生を食べてしまったりしてはいかんぞ。」
子供らはよろこんでニヤニヤ笑って口々に、
「おとうさん、ありがとう。きっと習うよ。先生を食べてしまったりしないよ。」と言いました。
クねずみはどうも思わず足がブルブルしました。
猫大将が言いました。
「教えてやってくれ。おもに算術をな。」
「へい。しょう、しょう、承知いたしました。」とクねずみが答えました。
猫大将はきげんよくニャーと鳴いてするりと向こうへ行ってしまいました。
子供らが叫びました。
「先生、早く算術を教えてください。先生。早く。」
クねずみはさあ、これはいよいよ教えないといかんと思いましたので、口早に言いました。
「一に一をたすと二です。」
「そうだよ。」子供らが言いました。
「一から一を引くとなんにもなくなります。」
「わかったよ。」
子供らが叫びました。
「一に一をかけると一です。」
「きまってるよ。」と猫の子供らが目をりんと張ったまま答えました。
「一を一で割ると一です。」
「それでいいよ。」と猫の子供らがよろこんで叫びました。そこでクねずみはすっかりのぼせてしまいました。
「一に二をたすと三です。」
「合ってるよ。」
「一から二を引くと……」と言おうとしてクねずみは、はっとつまってしまいました。
すると猫の子供らは一度に叫びました。
「一から二は引かれないよ。」
クねずみはあんまり猫の子供らがかしこいので、すっかりむしゃくしゃして、また早口に言いました。そうでしょう。クねずみはいちばんはじめの一に一をたして二をおぼえるのに半年かかったのです。
「一に二をかけると二です。」
「そうともさ。」
「一を二で割ると……。」クねずみはまたつまってしまいました。すると猫の子供らはまた一度に声をそろえて、
「一割る二では半分だよ。」と叫びました。
クねずみはあんまり猫《ねこ》の子供らの賢いのがしゃくにさわって、思わず「エヘン。エヘン。エイ。エイ。」
とやりました。すると猫の子供らは、しばらくびっくりしたように、顔を見合わせていましたが、やがてみんな一度に立ちあがって、
「なんだい。ねずめ、人をそねみやがったな。」と言いながらクねずみの足を一ぴきが一つずつかじりました。
クねずみは非常にあわててばたばたして、急いで「エヘン、エヘン、エイ、エイ。」とやりましたがもういけませんでした。
クねずみはだんだん四方の足から食われて行って、とうとうおしまいに四ひきの子猫は、クねずみの胃の腑《ふ》のところで頭をコツンとぶっつけました。
そこへ猫大将が帰って来て、
「何か習ったか。」とききました。
「ねずみをとる
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