しき争論、時に格闘の声を聞きたりと。以上を総合するに、本事件には、はりがねせい[#「はりがねせい」に傍点]、ねずみとり[#「ねずみとり」に傍点]氏、最も深き関係を有するがごとし。本社はさらに深く事件の真相を探知の上、大いにはりがねせい[#「はりがねせい」に傍点]、ねずみとり[#「ねずみとり」に傍点]氏に筆誅《ひっちゅう》を加えんと欲す。と。ははは、ふん、これはもう疑いもない。ツェのやつめ、ねずみとりに食われたんだ。おもしろい。そのつぎはと。なんだ、ええと、新任ねずみ会議員テ氏。エヘン、エヘン。エン。エッヘン。ヴェイヴェイ。なんだちくしょう。テなどがねずみ会議員だなんて。えい、おもしろくない。おれでもすればいいんだ。えい。おもしろくもない、散歩に出よう。」
 そこでクねずみは散歩に出ました。そしてプンプンおこりながら、天井裏街の方へ行く途中で、二匹のむかでが親孝行の蜘蛛《くも》の話をしているのを聞きました。 
「ほんとうにね、そうはできないもんだよ。」
「ええ、ええ、全くですよ。それにあの子は、自分もどこかからだが悪いんですよ。それだのにね、朝は二時ごろから起きて薬を飲ませたり、おかゆをたいてやったり、夜だって寝るのはいつもおそいでしょう。たいてい三時ごろでしょう。ほんとうにからだがやすまるってないんでしょう。感心ですねえ。」
「ほんとうにあんな心がけのいい子は今ごろあり……。」
「エヘン、エヘン。」と、いきなりクねずみはどなって、おひげを横の方へひっぱりました。
 むかではびっくりして、はなしもなにもそこそこに別れて逃げて行ってしまいました。
 クねずみはそれからだんだん天井裏街の方へのぼって行きました。天井裏街のガランとした広い通りでは、ねずみ会議員のテねずみがもう一ぴきのねずみとはなしていました。
 クねずみはこわれたちり取りのかげで立ちぎきをしておりました。
 テねずみが、
「それで、その、わたしの考えではね、どうしてもこれは、その、共同一致、団結、和睦《わぼく》の、セイシンで、やらんと、いかんね。」と言いました。
 クねずみは、
「エヘン、エヘン。」と聞こえないようにせきばらいをしました。相手のねずみは、「へい。」と言って考えているようです。
 テねずみははなしをつづけました。
「もしそうでないとすると、つまりその、世界のシンポハッタツ、カイゼンカイリョウがそのつまりテイタイするね。」
「エン、エン、エイ、エイ。」クねずみはまたひくくせきばらいをしました。
 相手のねずみは、「へい。」と言って考えています。
「そこで、その、世界文明のシンポハッタツ、カイリョウカイゼンがテイタイすると、政治はもちろんケイザイ、ノウギョウ、ジツギョウ、コウギョウ、キョウイク、ビジュツそれからチョウコク、カイガ、それからブンガク、シバイ、ええと、エンゲキ、ゲイジュツ、ゴラク、そのほかタイイクなどが、ハッハッハ、たいへんそのどうもわるくなるね。」テねずみはむつかしいことをあまりたくさん言ったので、もう愉快でたまらないようでした。クねずみはそれがまたむやみにしゃくにさわって、「エン、エン。」と聞こえないように、そしてできるだけ高くせきばらいをやって、にぎりこぶしをかためました。
 相手のねずみはやはり「へい。」と言っております。
 テねずみはまたはじめました。
「そこでそのケイザイやゴラクが悪くなるというと、不平を生じてブンレツを起こすというケッカにホウチャクするね。そうなるのは実にそのわれわれのシンガイでフホンイであるから、やはりその、ものごとは共同一致団結和睦のセイシンでやらんといかんね。」
 クねずみはあんまりテねずみのことばが立派で、議論がうまくできているのがしゃくにさわって、とうとうあらんかぎり、
「エヘン、エヘン。」とやってしまいました。するとテねずみはぶるるっとふるえて、目を閉じて、小さく小さくちぢまりましたが、だんだんそろりそろりと延びて、そおっと目をあいて、それから大声で叫びました。
「こいつは、ブンレツだぞ。ブンレツ者だ。しばれ、しばれ。」と叫びました。すると相手のねずみは、まるでつぶてのようにクねずみに飛びかかってねずみの捕《と》り繩《なわ》を出して、クルクルしばってしまいました。
 クねずみはくやしくてくやしくてなみだが出ましたが、どうしてもかないそうがありませんでしたから、しばらくじっとしておりました。するとテねずみは紙切れを出してするするするっと何か書いて捕り手のねずみに渡しました。
 捕り手のねずみは、しばられてごろごろころがっているクねずみの前に来て、すてきにおごそかな声でそれを読みはじめました。
「クねずみはブンレツ者によりて、みんなの前にて暗殺すべし。」クねずみは声をあげてチュウチュウ泣きました。
「さあ、ブ
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