》壁にならべられ、その一梃は軸にとりつけられて幽霊のやうにまはってゐました。
 私たちはその横を通って川の岸まで行ったのです。草の生えた石垣《いしがき》の下、さっきの救助区域の赤い旗の下には筏《いかだ》もちやうど来てゐました。花城《くゎじゃう》や花巻の生徒がたくさん泳いで居《を》りました。けれども元来私どもはイギリス海岸に行かうと思ったのでしたからだまってそこを通りすぎました。そしてそこはもうイギリス海岸の南のはじなのでした。私たちでなくたって、折角川の岸までやって来ながらその気持ちのいゝ所に行かない人はありません。町の雑貨商店や金物店の息子たち、夏やすみで帰ったあちこちの中等学校の生徒、それからひるやすみの製板の人たちなどが、或《あるい》は裸になって二人三人づつそのまっ白な岩に座ったり、また網シャツやゆるい青の半ずぼんをはいたり、青白い大きな麦稈《むぎわら》帽をかぶったりして歩いてゐるのを見て行くのは、ほんたうにいゝ気持でした。
 そしてその人たちが、みな私どもの方を見てすこしわらってゐるのです。殊に一番いゝことは、最上等の外国犬が、向ふから黒い影法師と一緒に、一目散に走って来たこと
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