幅が一寸ぐらゐ、非常に細長く尖《とが》った形でしたので、はじめは私どもは上の重い地層に押し潰されたのだらうとも思ひましたが、縦に埋まってゐるのもありましたし、やっぱりはじめからそんな形だとしか思はれませんでした。
それからはんの木の実も見附かりました。小さな草の実もたくさん出て来ました。
この百万年昔の海の渚《なぎさ》に、今日は北上川が流れてゐます。昔、巨《おほ》きな波をあげたり、じっと寂《しづ》まったり、誰《たれ》も誰も見てゐない所でいろいろに変ったその巨きな鹹水《かんすゐ》の継承者は、今日は波にちらちら火を点じ、ぴたぴた昔の渚をうちながら夜昼南へ流れるのです。
こゝを海岸と名をつけたってどうしていけないといはれませうか。
それにも一つこゝを海岸と考へていゝわけは、ごくわづかですけれども、川の水が丁度大きな湖の岸のやうに、寄せたり退《ひ》いたりしたのです。それは向ふ側から入って来る猿《さる》ヶ石《いし》川とこちらの水がぶっつかるためにできるのか、それとも少し上流がかなりけはしい瀬になってそれがこの泥岩層の岸にぶっつかって戻るためにできるのか、それとも全くほかの原因によるのでせ
前へ
次へ
全24ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング