かだ》のところなのですが、私たちがこの気もちよいイギリス海岸に来るのを止めるわけにも行かず、時々別の用のあるふりをして来て見てゐて呉れたのです。もっと談してゐるうちに私はすっかりきまり悪くなってしまひました。なぜなら誰でも自分だけは賢こく、人のしてゐることは馬鹿《ばか》げて見えるものですが、その日そのイギリス海岸で、私はつくづくそんな考のいけないことを感じました。からだを刺されるやうにさへ思ひました。はだかになって、生徒といっしょに白い岩の上に立ってゐましたが、まるで太陽の白い光に責められるやうに思ひました。全くこの人は、救助区域があんまり下流の方で、とてもこのイギリス海岸まで手が及ばず、それにも係はらず私たちをはじめみんなこっちへも来るし、殊に小さな子供らまでが、何べん叱《しか》られてもあのあぶない瀬の処に行ってゐて、この人の形を遠くから見ると、遁げてどての蔭や沢のはんのきのうしろにかくれるものですから、この人は町へ行って、もう一人、人を雇ふかさうでなかったら救助の浮標《ブイ》を浮べて貰《もら》ひたいと話してゐるといふのです。
 さうして見ると、昨日あの大きな石を用もないのに動かさう
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