のを見ました。その人は、町から、水泳で子供らの溺《おぼ》れるのを助けるために雇はれて来てゐるのでしたが、何ぶんひまに見えたのです。今日だって実際ひまなもんだから、あゝやって用もない鉄梃なんかかついで、動かさなくてもいゝ途方もない大きな石を動かさうとして見たり、丁度私どもが遊びにしてゐる発電所のまねなどを、鉄梃まで使って本当にごつごつ岩を掘って、浮岩の層のたまり水を干さうとしたりしてゐるのだと思ふと、私どもは実は少しをかしくなったのでした。
 ですからわざと真面目《まじめ》な顔をして、
「こゝの水少し干した方いゝな、鉄梃を貸しませんか。」
と云ふものもありました。
 するとその男は鉄梃《かなてこ》でとんとんあちこち突いて見てから、
「こゝら、岩も柔いやうだな。」と云ひながらすなほに私たちに貸し、自分は又上流の波の荒いところに集ってゐる子供らの方へ行きました。すると子供らは、その荒いブリキ色の波のこっち側で、手をあげたり脚を俥屋《くるまや》さんのやうにしたり、みんなちりぢりに遁《に》げるのでした。私どもはははあ、あの男はやっぱりどこか足りないな、だから子供らが鬼のやうにこはがってゐるのだと
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