列よりはも少し早く、たぶんは中隊長らしい人を先頭にだんだん橋を渡って行きました。
「どごさ行ぐのだべ。」
「水馬演習でせう。白い上着を着てゐるし、きっと裸馬だらう。」
「こっちさ来るどいゝな。」
「来るよ、きっと。大てい向ふ岸のあの草の中から出て来ます。兵隊だって誰だって気持ちのいゝ所へは来たいんだ。」
 騎兵はだんだん橋を渡り、最後の一人がぽろっと光って、それからみんな見えなくなりました。と思ふと、またこっちの袂《たもと》から一人がだくでかけて行きました。私たちはだまってそれを見送りました。
 けれども、全く見えなくなると、そのこともだんだん忘れるものです。私たちは又冷たい水に飛び込んで、小さな湾になった所を泳ぎまはったり、岩の上を走ったりしました。
 誰かが、岩の中に埋もれた小さな植物の根のまはりに、水酸化鉄の茶いろな環《わ》が、何重もめぐってゐるのを見附けました。それははじめからあちこち沢山あったのです。
「どうしてこの環、出来だのす。」
「この出来かたはむづかしいのです。膠質体《かうしつたい》のことをも少し詳しくやってからでなければわかりません。けれどもとにかくこれは電気の作用
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