らさせ大よろこびで髪《かみ》をぱちゃぱちゃやりながら野はらを飛《と》んであるきながら春が来た、春が来たをうたっているよ。ほんとうにもう、走ったりうたったり、飛びあがったりするがいい。ぼくたちはいまいそがしいんだよ。
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(コロナは八万三千十九
※[#ト音記号、53−8]‥‥‥
※[#ト音記号、53−9]‥‥‥ )
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砂土《すなつち》がやわらかい匂《におい》の息《いき》をはいています。いままでやすんでいた虫どもが、ぼんやりといま眼《め》をさまし、しずかに息をするらしいのです。麦はつやつや光っています。雪の下からうまくとけて出て青い麦です。早く走って行こう、かけさえしたらすぐに麦は吸《す》い込《こ》むのだ。
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(コロナは八万三千十九)
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わたくしたちが柄杓《ひしゃく》で肥《こえ》を麦にかければ、水はどうしてそんなにまだ力も入れないうちに水銀《すいぎん》のように青く光り、たまになって麦の上に飛びだすのでしょう、また砂土がどうしてあんなにのどの乾《かわ》いた子どもの水を呑《の》むように肥を吸い込むのでしょう。もうほんとうにそうでなければならないから、それがただひとつのみちだからひとりでどんどんそうなるのです。
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(コロナは十万八千二百
※[#ト音記号、54−7]‥‥‥
※[#ト音記号、54−8]‥‥‥ )
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こんどは帰りはわたくしたちは近みちをしてあの急《きゅう》な坂《さか》をのぼりましょう。あすこの坂なら杉《すぎ》の木が昆布《こんぶ》かびろうどのようです。阿部君《あべくん》、だまってそらを見ながらあるいていて一体何を見ているの。そうそう、青ぞらのあんな高いとこ、巻雲《けんうん》さえ浮《うか》びそうに見えるとこを、三羽の鷹《たか》かなにかの鳥が、それとも鶴《つる》かスワンでしょうか、三またの槍《やり》の穂《ほ》のようにはねをのばして白く光ってとんで行きます。
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(コロナは三十七万二百
※[#ト音記号、55−1]‥‥‥
※[#ト音記号、55−2]‥‥‥ )
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おや、
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