がきらっと光って霧《きり》とその琥珀との浮遊《ふゆう》の中を過《す》ぎて行きました。
と思うと俄かにぱっとあたりが黄金に変りました。
霧が融《と》けたのでした。太陽《たいよう》は磨《みが》きたての藍銅鉱《らんどうこう》のそらに液体《えきたい》のようにゆらめいてかかり融《と》けのこりの霧はまぶしく蝋《ろう》のように谷のあちこちに澱《よど》みます。
(ああこんなけわしいひどいところを私は渡《わた》って来たのだな。けれども何というこの立派《りっぱ》さだろう。そしてはてな、あれは。)
諒安は眼《め》を疑《うたが》いました。そのいちめんの山谷の刻《きざ》みにいちめんまっ白にマグノリアの木の花が咲《さ》いているのでした。その日のあたるところは銀《ぎん》と見え陰《かげ》になるところは雪のきれと思われたのです。
(けわしくも刻《きざ》むこころの峯々《みねみね》に いま咲きそむるマグノリアかも。)斯《こ》う云《い》う声がどこからかはっきり聞えて来ました。諒安は心も明るくあたりを見まわしました。
すぐ向《むこ》うに一本の大きなほおの木がありました。その下に二人の子供《こども》が幹《みき》を間にして
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