《やわ》らかなやさしいものを諒安によこしました。
 諒安はよじのぼりながら笑いました。
 その時霧は大へん陰気《いんき》になりました。そこで諒安は霧にそのかすかな笑《わら》いを投《な》げました。そこで霧はさっと明るくなりました。
 そして諒安はとうとう一つの平《たい》らな枯草《かれくさ》の頂上《ちょうじょう》に立ちました。
 そこは少し黄金《きん》いろでほっとあたたかなような気がしました。
 諒安は自分のからだから少しの汗《あせ》の匂《にお》いが細い糸のようになって霧の中へ騰《のぼ》って行くのを思いました。その汗という考から一|疋《ぴき》の立派《りっぱ》な黒い馬がひらっと躍《おど》り出して霧の中へ消《き》えて行きました。
 霧が俄《にわ》かにゆれました。そして諒安《りょうあん》はそらいっぱいにきんきん光って漂《ただよ》う琥珀《こはく》の分子のようなものを見ました。それはさっと琥珀から黄金に変《かわ》りまた新鮮《しんせん》な緑《みどり》に遷《うつ》ってまるで雨よりも滋《しげ》く降《ふ》って来るのでした。
 いつか諒安の影《かげ》がうすくかれ草の上に落《お》ちていました。一きれのいいかおり
前へ 次へ
全9ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング