《こ》う叫《さけ》んでいました。
(そうです。そうです。そうですとも。いかにも私の景色です。私なのです。だから仕方《しかた》がないのです。)諒安はうとうと斯《こ》う返事《へんじ》しました。
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(これはこれ
惑《まど》う木立《こだち》の
中ならず
しのびをならう
春の道場)
[#ここで字下げ終わり]
どこからかこんな声がはっきり聞えて来ました。諒安《りょうあん》は眼《め》をひらきました。霧《きり》がからだにつめたく浸《し》み込《こ》むのでした。
全《まった》く霧は白く痛《いた》く竜《りゅう》の髯《ひげ》の青い傾斜《けいしゃ》はその中にぼんやりかすんで行きました。諒安はとっととかけ下りました。
そしてたちまち一本の灌木《かんぼく》に足をつかまれて投《な》げ出すように倒《たお》れました。
諒安はにが笑《わら》いをしながら起《お》きあがりました。
いきなり険《けわ》しい灌木の崖《がけ》が目の前に出ました。
諒安はそのくろもじの枝《えだ》にとりついてのぼりました。くろもじはかすかな匂《におい》を霧に送《おく》り霧は俄《にわ》かに乳《ちち》いろの柔
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