ん》を這《は》わなければならないと諒安は思いました。
全《まった》く峯にはまっ黒のガツガツした巌が冷《つめ》たい霧を吹《ふ》いてそらうそぶき折角《せっかく》いっしんに登《のぼ》って行ってもまるでよるべもなくさびしいのでした。
それから谷の深い処には細《こま》かなうすぐろい灌木《かんぼく》がぎっしり生えて光を通すことさえも慳貪《けんどん》そうに見えました。
それでも諒安《りょうあん》は次《つぎ》から次とそのひどい刻《きざ》みをひとりわたって行きました。
何べんも何べんも霧《きり》がふっと明るくなりまたうすくらくなりました。
けれども光は淡《あわ》く白く痛《いた》く、いつまでたっても夜にならないようでした。
つやつや光る竜《りゅう》の髯《ひげ》のいちめん生えた少しのなだらに来たとき諒安はからだを投《な》げるようにしてとろとろ睡《ねむ》ってしまいました。
(これがお前の世界《せかい》なのだよ、お前に丁度《ちょうど》あたり前の世界なのだよ。それよりもっとほんとうはこれがお前の中の景色《けしき》なのだよ。)
誰《だれ》かが、或《ある》いは諒安|自身《じしん》が、耳の近くで何べんも斯
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