マグノリアの木
宮澤賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)霧《きり》が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)半分|踏《ふ》み

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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 霧《きり》がじめじめ降《ふ》っていた。
 諒安《りょうあん》は、その霧の底《そこ》をひとり、険《けわ》しい山谷の、刻《きざ》みを渉《わた》って行きました。
 沓《くつ》の底を半分|踏《ふ》み抜《ぬ》いてしまいながらそのいちばん高い処《ところ》からいちばん暗《くら》い深《ふか》いところへまたその谷の底から霧に吸《す》いこまれた次《つぎ》の峯《みね》へと一生けんめい伝《つた》って行きました。
 もしもほんの少しのはり合で霧を泳《およ》いで行くことができたら一つの峯から次の巌《いわ》へずいぶん雑作《ぞうさ》もなく行けるのだが私はやっぱりこの意地悪《いじわる》い大きな彫刻《ちょうこく》の表面《ひょうめん》に沿《そ》ってけわしい処ではからだが燃《も》えるようになり少しの平《たい》らなところではほっと息《いき》をつきながら地面《じめ
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