マリヴロンと少女
宮沢賢治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)枯《か》れて
−−

 城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は枯《か》れて焦茶色《こげちゃいろ》になって、畑の粟《あわ》は刈《か》りとられ、畑のすみから一寸《ちょっと》顔を出した野鼠《のねずみ》はびっくりしたように又《また》急いで穴の中へひっこむ。
 崖《がけ》やほりには、まばゆい銀のすすきの穂《ほ》が、いちめん風に波立っている。
 その城あとのまん中の、小さな四《し》っ角《かく》山の上に、めくらぶどうのやぶがあってその実がすっかり熟している。
 ひとりの少女が楽譜《がくふ》をもってためいきしながら藪《やぶ》のそばの草にすわる。
 かすかなかすかな日照り雨が降って、草はきらきら光り、向うの山は暗くなる。
 そのありなしの日照りの雨が霽《は》れたので、草はあらたにきらきら光り、向うの山は明るくなって、少女はまぶしくおもてを伏《ふ》せる。
 そっちの方から、もずが、まるで音譜をばらばらにしてふりまいたように飛んで来て、みんな一度に、銀のすすきの穂にとまる。
 めくらぶどうの藪からはきれいな雫《し
次へ
全6ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング