半分とられながら叫《さけ》ぶ。
 マリヴロンは、うっとり西の碧《あお》いそらをながめていた大きな碧い瞳《ひとみ》を、そっちへ向けてすばやく楽譜に記された少女の名前を見てとった。
「何かご用でいらっしゃいますか。あなたはギルダさんでしょう。」
 少女のギルダは、まるでぶなの木の葉のようにプリプリふるえて輝《かがや》いて、いきがせわしくて思うように物が云《い》えない。
「先生どうか私のこころからうやまいを受けとって下さい。」
 マリヴロンはかすかにといきしたので、その胸の黄や菫《すみれ》の宝石は一つずつ声をあげるように輝きました。そして云う。
「うやまいを受けることは、あなたもおなじです。なぜそんなに陰気《いんき》な顔をなさるのですか。」
「私はもう死んでもいいのでございます。」
「どうしてそんなことを、仰《お》っしゃるのです。あなたはまだまだお若いではありませんか。」
「いいえ。私の命なんか、なんでもないのでございます。あなたが、もし、もっと立派におなりになる為《ため》なら、私なんか、百ぺんでも死にます。」
「あなたこそそんなにお立派ではありませんか。あなたは、立派なおしごとをあちらへ行
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