夫等 円舞。
衣裳係は六七着の上着を右手にかけて、後向きに左手を徘徊して新らしい参加者を待つ。
背景はまっくろな夜の野原と空、空にはしらしらと銀河が亘ってゐる。
すべてしろつめくさのいちめんに咲いた野原のまん中の心持、
円舞終る。コンフェットー。歓声。甲虫の羽音が一さう高くなる。衣裳係暗をすかし見て左手から退場。
みんなせはしくコップをとる、給仕酒を注いでまはる。山猫博士ばかり残る。
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山猫博士(立ち上がりながら)「おいおい、給仕、なぜおれには酒を注がんか。」
給仕、(周章てゝ来る)「はいはい、相済みません。座っておいでだったもんですからつい。」
山猫博士、「座っておいでになっても立っておいでになっても我輩は我輩ぢゃないか。おっと、よろしい。諸君は乾杯しやうといふんだな。よしよし。ブ、ブ、ブロージット。」
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乾杯。山猫博士首を動かしながら歩き廻る。
ファゼロ続いてキュステ登場。
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ファゼロ、「あ、山猫博士も来てゐるよ。」
キュステ「あれかい。山猫博士といふのは何だい。」
ファゼロ、「あの人は山へ行って山猫を釣って来て
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