場? 何がどうしたんだ。全体きみはどこへ行ってたんだ。」
「ぼくはねえ、センダードのまちの革を染める工場へはいっていたよ。」
「センダード。どうしてあんなとこまで行ったんだ。そして今夜またぼくにセンダードへ行けというのかい。」
「そうじゃないよ。」
「ではどうなんだ。第一どうしてあんなとこまで行ったんだ。」
「ぼく、どうしても、うちへはいれなかったんだ。そしてうちを通り越してもっと歩いて行った。すると夜が明けた。ぼくが困って坐っていると革を買う人が通ってその車にぼくをのせてたべものをくれた。それからぼくはだんだん仕事も手伝ってとうとうセンダードへ行ったんだ。」
「そうか。ほんとうにそれはよかったなあ。ぼくはまたきみがあの醋酸《さくさん》工場の釜の中へでも入れられて蒸し焼きにされたかと思ったんだ。」
「ぼくはねえ、あっちで技師の助手をしたんだ。するとその人が何でも教えてくれた。薬もみんな教えてくれた。ぼくはもう革のことなら、なめすことでも色を着けることでもなんでもできるよ。」
「そしてどうして帰ってきた。」
「警察から探されたんだよ。けれどもそんなに叱られなかった。」
「きみの主人は何と
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